よくアサーションの講義をすると、皆さんから寄せられる質問というか、抗議?があります。
それは「こんなことを言ったら、相手を傷つけてしまうのではないか」ということ。
それに対する私の返答は「はい、相手を傷つけてしまうこともあるでしょう」です。
アサーションは「相手を傷つけないコミュニケーションなんじゃないの?」という前提に立っている人には「ええっ!」という顔をされます。
たとえば…
- ある人に対して、「行動に問題があるので現場に出せない」という判断を伝えなければならない
- 職場のある人の体臭が強く、周囲の人から「何とかしてほしい」という声が上がっている
など、伝えることを考えるだけで冷汗が出てきそうなテーマがあります。
でも問題を放置もできないし、なんにせよ伝えなければならない。どうしよう。
こんなとき、なんとかして「相手を傷つけない」ようにしようとすると、ときとして無責任な言い方になってしまうことがあります。
- 「私的には〇〇さんは今のままでも全然OKなんですよ…。ただちょっとそういうのにうるさい現場もときどきありますので…」
- 「私は別にそうは思ってないんだけどね…。ただ気にする人もいるからさ…」
といった具合です。
「相手を傷つけないようにしなきゃ」と思うあまりに、自分自身はその意見を否定しながら、「周りの声」として伝えてしまうのです。
言われた側にしてみれば、姿の見えない誰かのメッセージをどこまで本気に受け取るべきなのかもわからず、目の前の人に言い返すこともできません。
相手がショックを示すと、「あっ、そんなに大したことじゃないんです!」と思わず問題の大きさをごまかしてしまったりします。
最後は「あまり気にしないでくださいね…」と、わざわざ伝えたにも関わらず「気にするな」という矛盾した形で締めくくってしまったりします。
ううーん、なんだか言ったほうも、言われたほうもどちらもスッキリとしません。
相手を傷つけたくなかっただけなのに…。
しかし、そもそもこのようなテーマを伝えて、相手が傷つかないということがあるでしょうか。
だって、「どう言われようがショック」なことを伝えようとしているのですから。
そんなとき、「相手を傷つけない」ということを前提にすると、問題の本質をごまかす言い方や、責任を取らない言い方になってしまうのです。
それよりも、「この件を伝えることで、相手は傷つくかもしれない」ということを認めて、受け入れてほしいのです。
「自分は相手がショックに感じるだろうことを、今から伝えるんだ」という、いわば覚悟を定めてほしいのです。
- 「大変残念ですが、〇〇さんの現在の行動だと、現場にはまだ出せないという判断になりました。これは私自身の判断です」
- 「大変言いにくいのですが、〇〇さんの体臭が気になるという声がありました。
他の人から言われるまでお伝えせずに申し訳なかったのですが、私自身が実は気になっていたのです」
など、「私」を主語にして、真正面から伝えてみてください。
相手はきっと動揺するでしょうし、ショックを感じるでしょう。
ただ、あなたが主体性をもって、覚悟をもって伝えていれば、相手のショックを受け止める役割も果たすことができます。
「驚かせてしまったことと思います…」、「ショックですよね…」と、相手の動揺や傷つきも当然生じえるものとして、受け止めることができます。
「そんな…」と相手が絶句したとしても、その沈黙に寄り添うことができます。
「でも~~じゃないですか!」などの相手の言い分や反論に対しても、真摯に受け答えできるでしょう。
少し時間をおいた後で、「先日の件についてお伝えしてから、〇〇さんの気持ちが気になっているのだけど…」とフォローすることもできます。
「傷つけたくないので、なるべく遠回しに言って、相手の反応から目を逸らす」のではなく、「傷つけるかもしれないけど、まっすぐ言って、相手の反応を受け止める」という気持ちで臨むほうが、よほど誠実な対応を取ることができます。
言いにくいことを伝えるとき、「相手を傷つけない」ことを前提にするのではなく、「相手を傷けてしまうこともある」と思って臨む。
その心の準備を持ってみませんか!