さて、アサーションというコミュニケーションは、起きている問題を相手に伝えて、理解を得て、行動を変えてもらうように伝えるときなどに役立ちます。
ところが、私たちは相手に対して率直に要求するということを普段しないために、いざ伝えようとしてもなかなかうまく伝えられないものです。
例えばこのようなケースで考えてみましょう。
上司Aさんは、新入社員B君の遅刻が気になっています。一応連絡は入れてくるものの、頻度が多く、朝一に確認したいことなどがスムーズに始められません。
そこでAさんはB君と話し合ってみることにしました。
【Take1】
Aさん「B君、最近遅刻が多いようだけれど…」
B君「ああ、すみません…。」
Aさん「どうかしたのかな?」
B君「いや、どうということもないんですが…、元々朝起きるのが苦手で…」
Aさん「そうなんだね…。まあ若いときは眠いしね…。目覚ましはちゃんとかけてるの?」
B君「はい、ただ気づくと止めてしまってまたそこから寝ちゃうんですよね…」
Aさん「そうか…じゃあ目覚ましを2個かけておくのはどうだろう?」
B君「はい、でもそれもやってみたことはあるんですが、あまり効果がなく…」
Aさん「うーん…。そうしたら寝る時間をもっと早めてみるのはどう?」
むむむ…おかしいですね。AさんとB君の関係は上司-部下にも関わらず、なんだかお母さんと子どものような会話の内容になっています。
私たちは、自分の困りごとを解決するにあたり相手の協力が必要な場合、相手が難色を示すと、せっせと「こうしてみたらどうか」と、解決手段を提示しようとしてしまいます。
ただ、よく考えてみてほしいのは、それは本来「相手がなんとかすべきこと」であって、「自分がなんとかすべきこと」ではありません。
上記の例でいけば、社会人として始業時間に間に合うように出社するのは、B君の責任範囲のはずです。B君はそのための問題解決能力も持っているはずです。
伝えるべきは、手段ではなく、求めるラインです。
【Take2】
Aさん「B君、ここ1ヶ月ほど、週に2回以上遅刻しているね。」
B君「ああ、すみません…。」
Aさん「どうかしたのかな?」
B君「いや、どうということもないんですが…、元々朝起きるのが苦手で…」
Aさん「そうなんだね。ただ、私としてはその都度『何かあったのではないか』と心配になるし、朝一に確認したいことが始められずに困っているよ」
B君「そうですよね。本当にすみませんでした」
Aさん「うん。だからこれからは始業時間にきちんと間に合うように出社してくれないだろうか」
B君「わかりました。今後は改めます」
はい、これでこそ上司と部下の会話ですね。
Aさんは「どうやって遅刻しないようにするか」という相手の責任範囲に立ち入らず、「時間通りに出社する」という求めるラインを示すことに徹することができました。
「相手も忙しいだろうし」とか「相手も困っているだろうし」など、相手の状況がよくわかっていればいるほど、「じゃあこうしてみたら?」とか「私が○○しようか?」など、相手の問題解決を肩代わりしてしまいやすくなります。
ただ、私たちはきちんと「その気」になりさえすれば、それをなんとかできる力は本来もっているはずです。
「私はあなたにこれをお願いしたい」という率直な要求を、勇気を出して示してみてくださいね!