さて、皆さんは「中期キャリア危機」という言葉を聞いたことがありますか?
私はこの言葉を20代に初めて聞いて、「フーン、そういうこともあるのね」と頭の片隅をかすっただけでしたが、気づけばその年代のど真ん中に至っておりました。
中期キャリア危機とは、35~45歳あたりの、ざっくりいえば「自分の仕事(と人生)はこれでいいのか」という問い直しを迫られる時期のことです。
ここまでにある程度固めてきたはずのキャリアの方向性や職場での立ち位置、家庭とのバランスが危うくなり、もう一度再検討、再吟味の必要が出てくる年代を示した言葉です。
このコラムの読者様の年齢はもちろん様々とは思いますが、この年代に含まれる方も多いのではないでしょうか? 日々プロジェクトの中心人物として頑張っておられるでしょうが、しかし胸のうちでは悩みや葛藤を抱える時期でもあるのです。
これはキャリア理論の大家で、アメリカの心理学者エドガー H・シャインという人が提唱した「キャリア・サイクル」の一つの段階として出てくるものです。
シャインは、組織で働く人は、それぞれのキャリアの段階で遂げるべき課題があるということを示しました。
20代の「キャリア初期」時代は、組織にエントリーしたばかりの段階で、基本的な仕事の流れを学ぶことや、上司とうまくやっていく方法を身に着けること、部下としての有能さを認められることなどが遂げるべき課題です。
一方、30代の「キャリア中期」を迎えると、ある程度独立したり、自分の意思決定に自信をもったり、組織の中で立ち位置を確立したり、自分自身の仕事ぶりを自分で評価できるようになることが新たな課題となります。
そして35~45歳の「キャリア中期の危機」の段階では、自分の当初の夢と現実の折り合いをつけたり、このまま現状維持をするのかキャリアを変えるかを決めたり、仕事と家庭のバランスを見直して決めたりすることが課題となるのです。
他にも段階はあるにもかかわらず、この年代だけ「中期キャリア危機」という強い言葉でネーミングしてあることに、なんだかシャインの強い思い入れを見る気がします。
しかもシャインはアメリカ人で、ずいぶん昔(1970年代)に提唱したことなのに、現代の日本のビジネスパーソンにも違和感なくぴったりあてはまることに驚いてしまいます。
「このお年頃の悩みって、昔から、どこでもずっと変わらないのね…」というのは、なんだか安心もしますよね。
もちろん「中期キャリア危機」を乗り越えたからと言って、あとは安泰ではなく、「後期キャリア」、「引退」といった次のステージは待ち構えています。
ただそれも、これまでの数えきれないビジネスパーソンが通過してきたものと思えば、知らない誰かに励まされるような気もします。
「中期キャリア危機」世代の皆様もそうでない方も、先人の悩みも身近に感じつつ、同じ時代を生きる者同士、一緒に頑張っていきましょう!