さて、前回このコラムで、「自分自身に思いやりを向ける」ことをお勧めしました。
うまくいかなかったときや、失敗したときに、自分を追い詰めるのではなく、「大変だったね」と優しい言葉をかけてあげるような関わり方です。
しかし、そう言われるとムクムクと「いや、それはダメでしょ」という別の声が自分の中から出てきませんか?
「そんな甘やかしたことを自分に言ったら、努力しなくなるでしょ」とか、「それじゃ社会から落ちこぼれちゃうでしょ」など、すかさず強力なカウンターが返ってきませんか?
このように、自分が苦しいときに自分に対して批判的な言葉を投げつけることを「自己批判(Self-Judgement)」と言います。
例えば何か仕事で失敗したとき、「自分はここがダメだった、あそこがまずかった」と厳しく糾弾し、「もっとしっかりしないと職場に居場所がなくなるぞ!」などと最悪の事態を想定して自分を恐怖で駆り立てようとします。
これを四六時中自分に対して繰り広げていたら…うーん、辛いですね。
なんでこんなに厳しいんでしょうか。
というのも、自己批判は、私たち人間が進化によって手に入れた新しい脳の仕業なのです。
動物は未来のことを心配したり、過去を悔んだりすることはありません。他の仲間に自分がどう見られているかを気にすることもありません。
しかし人間は、脳を発達させ、未来に起こる出来事を予想し、過去の反省を活かせるようになることで、弱肉強食の世界で繁栄してきました。
「自分はちゃんと他の仲間から気に入られているだろうか」と気にすることで、群れの中での立ち位置を確保してきました。
なので自己批判は、私たちの生存を助けてきてくれた存在でもあるのです。
生き延びるために、未来の危険を知らせ、過去の過ちを振り返らせ、他者目線を取り入れさせることで、生き延びる可能性を高めてきたわけです。
いわば心配性で、口うるさい親みたいなものかもしれません。親としては全力で子どもを守ろうとしているわけです。
ただ、そのアプローチは自分を内側から苦しめます。「できてない」と繰り返されたら、意欲はくじかれ、怒りと憂うつを自分に溜め込むことになります。
自己批判が沸き上がってきたら、「私を守ろうとしてくれているんだね。でも、その言葉はちょっと辛いから、自分に優しくしてもいいだろうか」と自分に語りかけてみてください。
ちょっとやっかいな脳の仕組みも理解しつつ、少しずつセルフ・コンパッションに軸足を移していけたらいいですね!