SF映画の原作者としてよく名前が挙がるのが、作家フィリップ・K・ディック。有名なところではブレードランナーや、トータルリコールの原作者として知られていますが、それ以外にもマトリックス、ファイトクラブ、ガタカといった映画にも影響を与えていると言われています。今回はそんなディック原作のSF映画ではありますが、恋愛サスペンスにもなっている「アジャストメント」を取り上げて、考えてみたいと思います。
マット・デイモンが演じるデヴィッド・ノリスは、アメリカ上院議員に立候補する予定。弁のたつ彼は若手でありながらも人気を集めていました。が、対立候補から昔の学生時代のスキャンダルネタを暴露されることに。さすがにこれでは勝てそうにないとあきらめて、敗北のスピーチを検討し始めます。そんな中、美人のダンサー女性エリースと偶然に出会い、完全に一目ぼれ(笑)。その場は未練を残しつつ別れたものの、数日後に彼女と偶然バスで出くわすという運命の再会。しかし、それをきっかけにデヴィッドは黒服の集団に追いかけられとらえられてしまいます。
黒服集団の彼らは「調整員」と名乗り、「運命調整局」という組織に属しているといいます。彼らは、世界のバランスをとっており、予定通りの未来に進むように人々の運命を調整しているのだというのです。ただ「本来の未来」なら、デヴィッドとエリースはバスで再会することがなかったはずなのです。が、その「調整」に失敗。それにより、当初描かれていた未来から大きく外れ始めているというのです。このままだと当初の未来からどんどん外れていってしまう。なので強硬手段に出てデヴィッドを捕まえ、強引に「調整」に入ったわけなのです。
さて、現実の我々の仕事の世界に舞い戻りましょう。
皆さんが日々推進していらっしゃるプロジェクト。それを何とかやり切って締め切りに間に合わせるためには、「いつまでに、これをしなければ」とか「ここまでに、この情報を作っておかなければ」という計画を立てていると思います。が、立てた計画通りすべてうまくいけばよいのですが、なかなか上手くいかないこともある。スケジュールでいえば「遅れてしまう」ということですし、コスト計画でいえば「予定以上に支出が増えている」というのも同じです。これを「あぁ、遅れてるね」と見ているだけでは、この遅れやズレはもちろん解消しません。ですので当然ながら、「じゃぁ来週以降、どうやってこの遅れをリカバリーするのか?」といった対策を検討したり、場合によっては追加人員の確保に走ることもあるのが現実。そう、対策を立てることで「この通りやり切ればコストも、スケジュールも間に合うはず」の、この「予定通りの計画の計画」が「ベースライン」と呼ばれるものであり、スケジュールの場合には承認されたスケジュール(スケジュール・ベースライン)、コストの場合には承認されたコスト(コスト・ベースライン)と呼ばれるものが作られているはずです。「この通り行けば上手くいくはずの計画」があってこそ、それからずれている、そこに持っていかねば、という進捗の調整が必要に。そして、今回の映画の内容も、『「世界の出来事のベースライン」に対して、現実が外れ始めている。このままでは予定通りの未来へ進んでいかないことになり、まずい!なんとか予定通りのベースラインになるように戻さねば!』と調整員が暗躍することになったわけです。
映画に戻りましょう。
本来、デヴィッドはエリースに会ってはいけなかった。などと言われても、もう実際会ってしまっていますし、出会ったことこそが運命だと当人同士は思っている。なのでいくら「(これ以外の)予定されていた世界線」があったとしても、そんな別の未来のことは、出会ってしまった二人にとっては知ったことではありません。デヴィッドはエリースとの未来をこのままつなげていきたい、できれば結ばれたいと考えます。しかし、調整員からはすでにこの世界には調整が入ったため、もう彼女は見つけられないと告げられてしまいます。
本来出会うはずではなかった二人。ちなみに、出会わない「予定通りの世界線」では、デヴィッドはゆくゆくは大統領にまで昇り詰める予定があり、またエリースはバレエ界で売れっ子として大成功を収めることになるはず。
そんなもとの世界線にもどって3年後…予定調和の未来でなにがおきるのか?予定の世界に翻弄される?それとも?
ちなみに映画のキャッチコピーは「<操作>された運命に逆らえ」だとか。
皆さんの仕事はやり切る、締め切りに間に合わせる未来になんとか修正する必要がありますが、映画の結末はどこに着地するのか。ぜひ本作をご視聴の上でご確認ください。
恋愛SFサスペンスともいえるこの映画。難しい理屈(SF)はおいておいたとしても恋愛サスペンス映画としてもそれなりに良くできているのではないでしょうか。寒くなってきた昨今、ご自宅でちょっと楽しみたいときに、気楽に楽しめる一本に仕上がっている映画です。
それではまた次回をお楽しみに。