●はじめに
外注先を適切にマネジメントできず、プロジェクトが失敗するケースは様々な理由で多発しています。
今回は、国内大手通信機メーカーA社のケースを考えてみましょう。
A社では、海外のソフトウェア開発の外注先(オフショアベンダー)との間でコミュニケーションが適切にコントロールされなくなり、QCD目標はどれも達成できず、巨額の損失を発生させて失敗しました。
外注先とのコミュニケーション上、何が起きたのか、そして、なぜ起きたのか、そこからは多くの教訓が読み取れます。
国内大手通信機メーカーA社では、米国の放送局B社向けに新規通信システムの商品化を進めていました。
商品化に必要な開発はほとんど外製化し、内製はコア技術や機密性の高い技術等のみとなっていました。
今回の商品化でのソフトウェア開発も全て外製で、現行のオフショアベンダーC社、D社と、新規のオフショアベンダーE社を併用する事になりました。
現在までに、C社、D社との間ではコミュニケーションルールを細かく決めており、精度が高く、スピード感のあるコミュニケーションが実現できていました。
今回のプロジェクトでは、徹底したコストダウンが求められるため、新規追加のオフショアベンダーとして特に価格競争力のあるE社を選定していました。
自社には、現行のC社、D社での実績があるので、E社も同様に問題なくマネジメントできるだろう…
E社との取引は、コミュニケーションルール等の細部まであまり約束事を詰めずに、開始しました。
当初は大きな問題なく進んでいましたが、開発が佳境に入ると現場はコミュニケーションエラーの連続になりました。
品質不良、納期遅れ、コストオーバー… 様々な問題が多発し、A社とE社では、互いに相手側を責める場面が増えてきました。
「『そんな約束はしていない』『ただでやるとは言わなかった』『いや、言った』の会話が現場で日常化している」
「自社の誰が外注先の誰と、何の情報を、いつ、どのように、どの程度共有するかが不明確で、現場の担当者の裁量に任され過ぎている」
「コミュニケーションマネジメントのルールは一応あるが、その通りに現場が実行していない」
「コミュニケーションマネジメントのルールは昔、一回作ったが、メンテされてないため、情報が古すぎて実行されてない」
「危機的な品質問題の発生時には、迅速に上部にエスカレーションされる必要があるが、現場で、もたつく」
「進捗状況を誰も正確に分かっていないし、説明できない」
「外注先の品質情報が自社の期待する形で報告されない」
「外注先に品質改善を要求したが、外注先側に温度差があり、動きが鈍い」
「必要な担当者に、必要な情報が伝わっていない」
「必要な担当者から、必要な情報が上がってこない」
「不具合発生時の情報共有が不完全」
「不具合発生時の対応が遅すぎる」
「自社の機密情報が外部に垂れ流されている」
「孫請け(サブベンダー)の状況が見えず、次のフェーズに進められない」…
外注先のマネジメントには、多角的な視点が必要です。
PMBOKの知識エリアである「品質(Q)、コスト(C)、スケジュール(D(=Delivery))」視点にくわえ、「コミュニケーション、統合、スコープ、資源、リスク、調達、ステークホルダー」のマネジメントが必要になります。
中でも、コミュニケーションマネジメントは「できて当たり前」と考えられがちですが、外注先との間でグレーゾーンのない、メリハリのある取り決めにしておくことが大変重要です。
手薄になり勝ちな領域ですが、失敗した場合のダメージは巨額になりかねません。
必要なモノ、必要なコトは何か。
自社と外注先とサブベンダー間のコミュニケーション手順書、情報セキュリティの手順書、自社と外注先とサブベンダー間の品質管理手順書、不良発生時の対応プログラム、情報パスのマッピング、そして、これらの現場への展開の徹底…
体系化すべきことは数多くあります。
コミュニケーションは、「ただ、なんとくなくする」ことではありません。
重要なのは「コントロールド」コミュニケーション、形だけでなく実効性のある形にコントロールできているかが重要なポイントです。
皆様のお仕事でも「コントロールド」に向けて、強化の必要な場面は多いのではないでしょうか?
■サマリー
外注先を適切にマネジメントする上で必要な「コントロールド」コミュニケーション。
重要なのは「コントロールド」ができているか?、形だけでなく実効性のある形でコミュニケーションがマネジメントできているか?
その留意点を理解しておくことで、外注先管理の成功率を向上させることができます。