さて、アサーションでは、「事実/感情/要求・提案」を言葉にすることが、うまく相手に伝える上で大切です。
ところが、この通り伝えているつもりなのに、「なんだかうまく伝わらない」ということがよく見受けられます。
以下のAさんのケースで考えてみましょう。
Aさんはプロジェクトマネジャーです。
メンバーのBさんに、とある件で他部署との連携業務をお願いしました。
ところが1ヵ月が経ったころ、Bさんはまだ何の連携も始めていないらしいことがわかったのです。
慌てたAさんは、Bさんと話をしました。
【テイク1】
Aさん「Bさん、例の連携業務ですが、まだ始められていないようですね(事実)」
Bさん「ええ、まだ時間はありますし、そんなに急ぐことはないかと思ったので…」
Aさん「確かにまだ時間はありますが、この連携が遅れると最終的にはプロジェクトに遅れをきたしてしまうので心配なんです(感情)。なので一刻も早く始めてほしいんです(要求)」
Bさん「まあそりゃそうですが…でも他にも急ぎの仕事はあれこれありますのでね…」
うーん、慌てているAさんを尻目に、Bさんにはいまいち響いていない様子ですね。
このように伝えるべきことを伝えているのに、なぜ?と思えてしまいますよね。
ところで、今回Aさんが伝えていることは、どれぐらいAさん自身の視点に近いものでしたでしょうか?
「連携業務がまだ始められていない」という事実も、「プロジェクトに遅れをきたしてしまうので心配」という感情も、Aさんの姿があまり見えてこないのです。
登場人物が出てこないので、感情移入できず、なので「早く始めてほしい」と要求されても、あまり心が動かないわけです。
そこでアサーティブに伝えるときは、相手に見えていない、「自分のカメラの映像を見せる」のだと考えてみてください。
【テイク2】
Aさん「Bさん、実は昨日、他部署のCさんとお話しする機会があって、そのときにCさんから『そういえば例の連携の件、まだ話がこないけど…?』と言われて(事実)、『ええっ、まだ話もいってなかったの?』と大変驚いたんです(感情)」
Bさん「あ、そうでしたか…。そんなことがあったんですか」
Aさん「はい、私としてはとっくに動いてくれているものと思っていたので、1ヵ月動きがなかったと知って、かなり焦っています(感情)」
Bさん「え、そうなんですか。そろそろ動かなきゃとは思ってましたが、そこまで急ぐことではないと思っていたのですが…」
Aさん「そうですね、確かにまだ時間はありますが、なにぶん今回は初めての連携先ですので、早め早めに動いておくに越したことはないと思うんです。できればこのあとすぐ着手いただけませんか(要求)」
Bさん「わかりました、何か不測の事態も起こるかもしれませんしね。早急に着手するようにします」
パチパチ! 今回はBさんにわかってもらうことに成功しましたね。
それというのも、Aさん視点からみたときの「事実」や「感情」がどのようなものだったかを、きちんと伝えることができたからです。
私たちは一つの問題を、それぞれの視点から見ています。
話し合ってわかってもらうべきは、「自分の視点からはどう物事が展開し、どう感じられていたのか」です。
そこで望遠鏡のような遠巻きの事実や感情ではなく、グっと自分に引き寄せたカメラからの事実や感情を言葉にするようにしてみましょう。
そうしてお互いのカメラの映像を見せ合って初めて、私たちは「分かり合える」のです。
自分のカメラに映った「事実」や「感情」を伝える、ぜひやってみてくださいね!