今回の映画は、名作中の名作、黒澤明監督の「生きる」を取り上げます。
物語の主人公は、町の様々な問題課題を解決するため役所内に設置された「市民課」課長、(黒沢作品ではおなじみの志村喬が演ずる)渡辺勘治。
彼は市民が陳情してくる様々な要望、課題を次々に解決して大活躍…といきたいところですが、山のように積みあがった陳情書をひとつひとつ確認し、役所の中の正しい部署であろうところに送り出すための確認、捺印といった、ある意味、つまらない作業をこなす日々。覇気もなく、自分の仕事の意義も見いだせていないような、腑抜けた状態です。当然のことながら、仕事において目覚ましい成果など期待できません。
ある日、彼自身、体調が思わしくないため病院へ行くと「胃ガン」である事が発覚します。当時の事情を考えると、これはほぼ死刑宣告に近いでしょう。余命も長くはないと悟った渡辺は、自分の人生は何なのかと自暴自棄になってしまいます。俺の人生はなんなのだろう、生きている意味はあるのだろうか…と。
そんな中、役所仕事が性に合わず転職したかつての同僚の女性と街で偶然出会います。その彼女が新しい職場で作っているネジまき式のおもちゃを見せてもらったことで、彼の心に何かがともります。こんなおもちゃでさえ誰かを喜ばせることができる。ならば、今の自分の立場だからこそできることがあるのではないか?…と考えて考えて考え抜き、そしてある事に気づきます。まさに目に輝きが戻る瞬間です!
さっそく次の日、役所へ再び出勤した彼は、すでに決裁していたはずの書類の山の中から、ある陳情書を見つけます。そしてその陳情に関して、積極的に働きかけようと車を手配させ、現地へ赴こうとするのです…がしかし!さて彼は何かを成し遂げることができたのか?
みなさんの周りで、このかつての「渡辺」のような、覇気がない、言われたことだけしかやってくれないといった仕事仲間はいないでしょうか?昔はバリバリ働いていたはずなのに、最近は大した成果を上げていない社員。高いスキルを持っているはずなのに、やる気がなさそうな社員。チームで仕事をしている中で、「彼/彼女、もう少し自分から積極的に仕事に関与してくれたら…」と残念な気持ちになることはないですか?
では、なぜ彼/彼女は、積極的に仕事に関わってくれないのか?その原因のひとつは、仕事/プロジェクトの「目的」がその人に見えていないからかもしれません。彼/彼女には、それをやり遂げたらどうなるのか、誰が喜んでくれるのか?が、目の前の仕事をこなすのに精いっぱいで見えていないのです。
もし、彼/彼女に、これが出来上がることによって広がる未来、より素晴らしい世界が伝わっていなかったり、彼ら自身で想像できていなければ、お願いした「仕事」は、やはり指示された「作業」の域を出ないのではないでしょうか。その「目的」が見えなければ、やる意味も意義も分からず、やる気も出ないのは想像に難くないことです。
そんな「目的」を明確にする道具が、PMBOK®で言うところの「プロジェクト憲章」であり、それをプロジェクト・チーム/メンバーに徹底するタイミングの一つが、キックオフミーティングです。「僕らはこのためにやるんだ、この顧客のために、こんな未来、こんな世界を目指すんだ」…これがメンバーに伝えられれば、メンバーはそれぞれの作業の意義を感じられるスタートが切れるはずです。
もちろん、そうした事を特に言い含めずとも、意義を暗黙にくみ取れる優秀なメンバーもいますが、なかなか理解できないメンバーもいます。プロジェクト・スタートの際に執り行われるキックオフミーティングは、そうした全員に「ぼくらは最後にこれを成し遂げる、その中のココを君にお願いしているんだ」といった「目的」を伝えるための最初の場です。皆さんのお仕事では実施されているでしょうか?
何のために?という目的を明確にし、その目的に向かって動いていく。プロジェクトがスタートすると作業は分解されますが、結果的に成し遂げる目的にすべてがつながっています。キックオフミーティングは、その目的が共有されていることの大切さを確認しあう場でもあります。
今回はかなり古い映画を取り上げましたが、時代にかかわらず、「目的」を持つ事が生きるエネルギーになり、それ自体が生きることを楽しくさせているのではないでしょうか。仕事の面でも、もちろん人生の面でも、いろいろと感じるところが多い映画「生きる」、是非ご覧ください。