私は高校生までピアノを習っていたので、今でも実家に帰るとときどき弾いています。もちろん思い通りにはなかなか弾けませんが、ときどきググーッと集中できて、指が勝手に動いていき、もう自分はただその流れに乗っているだけ、と感じる瞬間があります。
競技ダンスの練習でもそうでした。ほとんどがうまくいかない日々の連続ですが、数ヶ月に一回ぐらい、身体のすみずみまでコントロールがいきわたり、音の流れがゆっくりに感じられ、次にどんな動きを仕掛けられても完璧に対応できる!という確信に満ちた踊りができる日がありました。
あるいは仕事でもそうです。受講生も意欲が高く、こちらもノッてきたぞ、というタイミングで深い質問を投げてもらったりすると、自分の中から「これしかない」という言葉がスルスル~ッと浮かんできて、話す声量、スピードの緩急、目線の配り方まで完璧にコントロールしながら、その場の集中をググーッと高めた上で、絶妙の呼吸感でピタっと伝えられる、ということが時々あります(こんな日はたま~に、ですが笑)
こんな「時間感覚を失うほどの高い集中力、楽しさ、没頭している意識状態」は、「フロー(flow)」と呼ばれています。心理学者のチクセントミハイ教授により提唱された概念で、スポーツや趣味、あるいは仕事などで、入り込みやすい状態です。
皆さんも、こんな流れるような(flow)気持ちよさに乗って、一つの活動に没頭した経験は何度かあるのではないでしょうか。
このフロー状態は「生きている」実感を十二分に感じている瞬間であり、このフローを体験することが、人生の充実において重要であることをチクセントミハイは強調しています。
もちろんテレビを見たりして「リラックス」したり「ゆっくりする」ことも悪いことではありませんが、「研ぎ澄ます幸せ、集中する幸せ」は、さらにいいものだよ!と言っています。
ではこのフロー状態はどうやって入り込むことができるのでしょう。
実はこのフロー状態が成立するには、個人にとって、高いレベルの「チャレンジ」と、高いレベルの「スキル」がそろうことが必要です。
例えば未経験の新しい仕事を任されたときは、「チャレンジ」レベルは高いですが、まだそれに見合うスキルは伴っていない(スキルが低い)段階なので、フローよりは「不安」を感じます。
そこでその仕事を必死にこなし、だんだんスキルや能力が高まってくると、難しい仕事を楽しめる「フロー」の段階がやってきます。
ところがさらに同じ仕事を続けていると、もはやその仕事はチャレンジングではなくなり、当たり前の仕事となっていきます。そうなると今度は「退屈」の段階に向かいます。
そこで、私たちは次の「チャレンジ」を求めることになり、新しいチャレンジが始まると、また「不安」の段階を迎え、そしてまた次の「フロー」を迎える…というわけです。
ですが、この最初の「フロー」の段階と、後の「フロー」の段階は、同じフローでも「一段高い能力」に基づくフロー状態であることはお気づきいただけるかと思います。
このように、実は「フロー経験」を求めることは、自分の成長を促していくことでもあるんですね。フロー経験を通じて、私たちはより高度なレベルへと成長していくのです。
最近、「ググーッと集中した楽しさ」を味わってなかったなぁという方。
ぜひフロー経験を味わう活動を始めてみませんか?