初回、第2回と邦画が続きましたので、今回は宇宙開発の現場を描いた洋画を題材に、考えてみたいと思います。原題は「Hidden Figures」、あえて訳せば「隠された人物」とでも言えばいいでしょうか。
この映画は、たぶん多くの方の記憶にあるスペースシャトル計画…よりも前のアポロ計画…よりも、さらに前に実施されていたマーキュリー計画(アメリカ初の有人宇宙飛行計画)の際の史実に基づいたお話になります。そうした宇宙開発の中で、まだ取り上げられていないけれど、有能な人物がいたんだよ、というのが今回の映画のストーリー。
そのため時代背景は、1960年代初頭となりますので、少し当時の世界事情を振り返っておきたいと思います。当時は、ソ連が人類初の人工衛星スプートニクを打ち上げたことにより、宇宙開発競争が激しさを増していた時期。さらにソ連から、人類初の宇宙飛行士、ガガーリンが現れたことにより、アメリカとしては国の威信をかけて、宇宙開発計画を推し進めなければならない状況に追い込まれていた…そんな状況です。
それに加えてもうひとつの時代背景として、忘れてはならないものがあります。それは、当時のアメリカでは、まだ黒人差別が堂々とまかり通っていたこと。キング牧師の有名な「I have a dream…」で始まる演説が1963年だということを思い起こせば、時代背景はつかめるのではないかと思います。
そんな中、ソ連に負けじと宇宙開発のための膨大な研究、それに伴う様々な計算が行われたわけです。そのチームの一員に、今回の実質的主人公、優秀な黒人女性が加わりました。名前はキャサリン・ジョンソン。数学的にズバ抜けた才能を買われ、エンジニアとしては、黒人初、女性初の抜擢。しかし、周りにいるのは白人男性エンジニアばかりなので、彼女にわたってくる資料や作業は、差別的なものが後を絶ちません。たとえばキャサリンに手渡される資料が黒塗りになっていて、それでは当然仕事にならない。しかし、そんな逆境に彼女はなんとか対処して、正しい計算を行い、徐々に上司に信頼されていきます。
そうしてきちんと成果を出し続けてきたにもかかわらず、上司は彼女のある行動が気になります。仕事の最中に、キャサリンが1日のうちにたびたび、それも結構な時間、席を外すことを上司は彼女に問い詰めます。「なぜそんなに頻繁に席を離れるのか?」と。それをきっかけに、そこまで我慢していた彼女は、みんなの前で自分の思いを吐き出します。
彼女がこの職場で置かれている「黒人」としての立場、給与や服装に関する差別、トイレやコーヒーポットの差別。そもそも彼女が働いている研究所の建物の中には「黒人用のトイレ」がなく、彼女が使えるトイレに行くために、半マイル(800m)も先まで、日に何度も通う必要があったのです。
皆さんが今従事している日々のプロジェクトで、困ったことがなかった方はいないでしょう。それを自分で何とかしようとしても、場合によってはもう自分の権限ではどうにもならない、そんな状況はなかったでしょうか?それについて、上司に話をしてみたことがあるでしょうか?こんなことで困っている、これがネックになっていて困っている等々。もちろん、当人が何とかすれば解決できるものもありますが、上司やプロジェクト・マネジャーが少しだけメンバーのために動いてあげることで、現場がとても働きやすくなります。
プロジェクト・マネジャーの役目の一つは、いかにしてプロジェクト・チームのメンバーのパフォーマンスを上げていけるか。そのためにプロジェクト・マネジャーは、メンバーの働きの障害となり得る事はできる限り取り除く方向で助力し、プロジェクトを成功に導くことが重要になります。リーダーであるみなさんが、マネジャーであるあなたが、少し動くことで、現場のメンバーレベルではなかなか解決できないことを、一気に解決できる力を持っている場合があるのです。
上記の映画「ドリーム」では、キャサリンの心からの訴えを聞き入れた上司が、痛快な形で問題を解決してくれます。ぜひここは映画をご覧になって確認していただければと思います。
そうして映画の最後には、キャサリンの優れた数学的能力を信頼した宇宙飛行士に「彼女がOKというなら信じる」とさえ言わしめ、絶大な信頼と成果を勝ち取ります。
ここではキャサリンのみを取り上げましたが、実は主人公たる黒人女性はこの映画の中で3名出てきます。残りの2人はドロシーとメアリー。そして今回ご紹介したキャサリンがいなければ、もしかすると宇宙開発の歴史は大きく変わっていたかもしれません。そんな現場の優秀なメンバーの優秀な能力を引き出すために、リーダーやマネジャーはぜひ尽力していただければと思います。