これまでもストレスマネジメントの世界と、プロジェクトマネジメントの世界の共通点をお伝えしてきましたこのコーナー。
先日ストレスの文献を読み返していたところ、新たな共通点に気づいてしまいました。
それは「コーピングの“コスト”」という考え方です。
ここで少し復習ですが、「ストレスフルな出来事に直面した際にその負担を減らすための努力」をコーピングと言いました。
そして、コーピングには大きく2つの方向性があり、問題そのものを無くそうとする試みを「問題焦点型コーピング」といい、その出来事による不快な感情を鎮めようとする試みを「情動焦点コーピング」と言いました。
たとえば職場の対人関係でトラブルがあったとき、その人ととことん話し合うといった行動が「問題焦点コーピング」、周りの同僚に話を聴いてもらいスッキリする、といった行動が「情動焦点コーピング」です。そして、ストレスの研究においては、当初この「問題焦点コーピング」を行うことが、ストレスの低減に有効であると考えられてきました。
しかし、「問題焦点コーピング」によってストレス状況の改善に成功し、その状況がもたらす直接的な悪影響が少なくなったと思われる場合でも、その対処努力に伴う“コスト(コーピングのコスト)”が、個人の健康へ悪影響をもたらすという考えを、コーエンという学者が提唱したのです。
たとえば、仕事が溜まってストレスフルな状況が生まれているとしましょう。
そこで休日返上で仕事をすること(問題焦点コーピング)は、短期的にはそのストレス状況を解消するかもしれませんが、疲労が蓄積して、集中力低下や体調不良を招く可能性があります。さらに無理を重ねたせいで風邪でもひいて休むことになれば、休日返上で仕事をした結果が、さらなるストレスフルな状況を招くかもしれません。
コーエンらの主張は、コーピングを選択する際に、それぞれの方略の「利得」と「コスト」を考慮する必要があることを指摘したわけです。
この考え方、プロジェクトマネジメントの世界における、リスク・マネジメントの「二次リスク」の考え方と大変似たものがあると思いませんか?
「二次リスク」とは「リスクの対応をすることで新たに発生するリスク」のことを指しました。
たとえば「納期遅れ」というリスクを回避するために、新しい技術を使わないことを選択した場合、「他社が新技術を使えば自社の技術的競争力が低下する」という新たなリスクを発生させている、と考えるわけですね。
ストレスマネジメントの世界における「コーピングの“コスト”」にしても、プロジェクトマネジメントの世界における「二次リスク」にしても、その選択が適切かどうかという判断をする上では、短期的結果と長期的結果の両方に目を向けようということを教えてくれています。
結論を言われてみれば当然という印象かもしれませんが、異なる2つの世界で同じ視点が提唱されているという点が興味深く、改めて私たちの選択基準に取り入れてみる価値はあるかもしれませんね。