だんだん暖かくなり、桜の開花もいまかいまかという時期ですね。
皆様も年度末でさぞ忙しい毎日を過ごしていらっしゃることと思います。
重い責任を背負い、日々プレッシャーに耐えていることでしょう。
ところで、「プレッシャー」や「責任」が重い人ほど、やはりストレスを多く抱えているのでしょうか?
少し言い方を変えれば、職位の低い人ほどストレスの害を受けにくいのでしょうか?
実はこの質問の答えは「NO」なのです。
職位の高い人ほど、ストレスの害を受けにくく、職位の低い人ほどストレスの害を受けやすい、こういった研究結果が明らかになっています。
「ホワイトホール研究」という、有名な疫学研究があります。イギリスの公務員2.8万人を対象に、1967年から追跡調査を行っているものです。公務員のため、極端な年収の差はなく、全員が同じ健康保険システムに所属し、失業の不安はありません。
一方でそこは厳然とした階級社会で、職位により職務内容や責任の重さ、裁量の範囲ははっきりと分かれています。つまり、この対象者の間に健康状態の差が見られたとしたら、それは階級の違いに基づく部分が大きいと考えられるわけです。
はたして、職位の高い人々と低い人々の間には、はっきりした健康格差が生じていました。死亡率、心臓疾患、肥満傾向、腰痛、心の病等、さまざまなリスクが、職位が低い人ほど高いという結果が表れていたのです。
たとえば死亡率について、40~64歳の年齢層において、遺伝的な危険因子や、喫煙、過度の飲酒、運動などの生活習慣による影響力を除いた場合でも、最下層とトップ層の死亡率は2倍近い開きとなったそうです。
この結果はどのように解釈できるのでしょう。
高い階級の人は、高いレベルの要求や責任を負っていますが、その分自由裁量の幅も大きく、自分の技能を十分に活かすことができます。チャレンジ精神を満たし、自分の成長が感じ取れる環境にあります。
一方、低い階級の人は、仕事は簡単で責任はなくとも、意思決定することもないので「やらされ感」を強く持ちます。また自分の能力やスキルを発揮する場がないため、スキルが衰えていく可能性があり、そのことがモチベーションを下げていきます。
たとえ責任が重かろうとも、自由裁量があるほうが健康であるというわけです。
このように、「要求度」が高いことそのものが問題ではなく、「裁量度」との組み合わせが重要であることを示したのが、Karasekの「仕事の要求度-裁量度モデル」です。
従業員を「仕事の要求度」が「高い」または「低い」か、「裁量権」が「高い」または「低い」か、の4グループにわけると、最も健康リスクが高いのは、「仕事の要求度が高い」にもかかわらず「裁量権が低い」人々です。
このような人々は、心理的な負荷が強く、攻撃的になったり、気分が落ち込んだり、強い疲労感を感じやすくなります。実際、ホワイトホール以外の様々な研究でも、この「高要求-低裁量」の人々が高いリスクを負っていることが明らかになっています。
仕事において、自分の意思が職場に反映されたり、プロセスを決めることができたり、自分のスキルを十分に活かせたり…といった自由裁量がきくことが、ストレスを下げるということなんですね。
4月から新しい業務もスタートすることでしょう。
職位は変えられずとも、仕事の裁量範囲については工夫次第で広がるはずです。
自分や周りのメンバーがどうしたら裁量の幅を広げられるか、ぜひ検討してみてください。