さて今回は、相手に何らかの要求をするときに、その理由をどこに置くべきかということをお話ししたいと思います。
先日、ある受講生Aさんに、アサーションのロールプレイに挑戦してもらったときの話です。
Aさんは最近自分が担当する仕事が少ないことを気にされており、「もっと新しい仕事を回してくれるよう上司にお願いする」というテーマで臨みました。
ロールプレイ1回目のAさんのセリフはこうでした。
「私の手が空いているのはもったいないのではと思い・・・」
う~ん、なんだかなぁ。
いまいち心に響いてきません。
むしろ、自分が上司だったら、「そんなことあなたに心配されたくないよ」と言いたくなってしまいませんか?
少し前に「あなたのためだから」と言って、ダイエットをしている友人のケーキを食べようとするCMがありましたね。
「自分がケーキを食べたいから」に他ならないのに、「あなたのため」と言ってのける姿に思わず苦笑してしまったものです。
そうなんです、私たちはつい自分の真の気持ちを隠して、「相手のため」を装い、相手への要求をしてしまいがちです。
本当は自分のほうに、何かしらの不満や苦しさなど、「このままではいられない」という思いがあるからこそ相手に要求するのに、その理由を「あなたのためだから」にすり替えてしまう。
これでは相手の気持ちは動かせるはずもありません。
私たちは真実のメッセージと虚飾のメッセージを聞き分けることにかけては大変敏感な生き物です。
改めてAさんに、「どうしてこのことを要求したいと思ったのか、あなたの気持ちのど真ん中を教えてほしい」とお願いしたところ…
「同じ仕事の繰り返しで、仕事中ずっとモヤモヤしているんです。スキルが落ちていくんじゃないかって不安なんです」
とおっしゃるではないですか。
そうです、この気持ちが本当はAさんがお願いしたいと思った発端だったのですね。
2回目のロールプレイで、この気持ちをごまかさずに伝えてもらったところ…
「そうだったんだ、気づかずに申し訳なかったね。Aさんにお願いできることがないか検討してみるよ」との言葉が、自然と相手役からこぼれました。
いや~よかったですね、Aさん。(もちろんこれはロールプレイです、念のため)
このように私たちは、相手に何らかの要求をしたいとき、本当は自分の気持ちに端を発しているにもかかわらず、「あなたのためだから」「君はこのままではまずい」など、相手にその理由を預けた形で要求してしまいがちです。
「こんなこと言ったらわがままに見られるのではないか」とか、「こんなの理由にならない」との心配から、ついつい聞こえのよい、「相手のため」という理由をまぶしてしまいたくなる気持ちはよくわかります。
しかしこの相手を理由にした要求は、相手に対する恩着せがましさや、「別に自分はこれで構わない」という開き直りを誘ってしまいがちです。
それよりも、勇気を出して「困っています」「今のままでは苦しいんです」という自分の率直な気持ちをオープンにするほうが、相手の「それは申し訳なかった」とか、「それなら何とかしてあげなきゃ」といった気持ちを呼び起こすことになるのです。
職場で、ご家庭で、「相手に要求したいな」と思ったとき。
あなたの気持ちをごまかさずに伝えるようにしてくださいね!