私たちはストレスを抱えたとき、話を聴いてもらうことを必要としています。
誰かに話を聴いてもらい、心の中を占めるモヤモヤを整理することができると、心にスペースができ、物事に対処する余裕が生まれるのです。
PCもクリーンアップをしないと働きが落ちますね。それと同じようなものです。
このような、相手が心の内を整理する手助けとなる聴き方は「傾聴」と言いますが、これは普段の聞き方の延長ではありません。モードスイッチが必要です。
よく会話はキャッチボールに例えられますが、傾聴ではどんなキャッチボールをしたらよいのでしょうか。
それは「話し手が投げた球を、ちゃんと受け止め、話し手に返球する」キャッチボールです。
あたりまえのようですが、これが一番大事です。
例えばこの通りです。
話し手:「うちのチームになかなか頑固な人がいて、ちょっと困ってましてね」
聴き手:「はぁ、チームに頑固な人がいて、困っていらっしゃるんですね」
何も足さない、何も引かない。(ジョークです!)
相手が投げてきたメッセージを受け止め、そのまま相手に投げ返します。
これの何が良いのでしょう。
こうすることで、話し手には「次の話の行先を決める自由」が生まれるのです。
話し手:「ええ、その人は技術的には優れてて頼りにしているんですけど、発言がどうもネガティブで…。」
こんなふうに、話し手は、次の球を話したいところへ投げることができるのです。
ところが多くの場合、こうはいきません。
キャッチャーである聴き手が、相手が投げてきた球は見送り、自分がカゴから新しい球を出しては好きな方向へ投げることを始めてしまうのです。
話し手:「うちのチームになかなか頑固な人がいて、ちょっと困ってましてね」
聴き手:「えっ、それは何歳ぐらいの人ですか?」
この瞬間、この対話の主導権は「聴き手」に移ってしまいます。
この後も、聴き手は自分の知りたいことを知るために、次々質問を繰り出します。
話し手は、聴き手の関心を満たすために、あちらこちらと走りまわされる羽目になるのです。キャッチボールというよりは、さながら鬼コーチが千本ノックをしているかのごときです。
こうして聴き手に主導権を奪われた話し手はへとへとになり、もともと自分が投げるつもりだったボールを投げる気も失せてしまうのです。
知り尽くして満足した聴き手は、息が上がった話し手を見て、「こんなによく聴いてあげたのに、どうして不満げな顔なのか」と不思議に思うのです。
傾聴の目的は、「自分が知り尽くす」ことではありません。
「相手が話し尽くす」ことです。
「うんうん、なるほど。」
「~~と思っているんですね」
「~~ということを心配されているんですね」
こんなふうに、聴き手が「受け止める」ことに役割を切り替えてくれたなら、話し手には、初めて自分が話したいように話す自由が生まれます。
「そうなんですよ、それで実は…」と、自分の話したいことを邪魔されることなく、話し出すことができます。
そこで初めて、自分の問題について話しながら整理をつけることができ、今後どうしたらよいかもうっすら見えてくるものなのです。
よい聴き手になろう!と思ったら、「自分が知り尽くさなくてもよいのだ」と頭を切り替え、相手の球を受け止めることに気持ちを向けてみてください。
そうすると、相手からの「話せてよかった」という表情が引き出せるはずですよ!