前回、「聴く」ことについてお伝えしました。
今回は、「問題解決に効果的なきき方」について考えてみましょう。
「聴く」との対比として、「訊く」を挙げてみたいと思います。
「訊く」は、尋ねる、問いただすといった、事情聴取のようなきき方です。
この「聴く」と「訊く」では、問題解決の主役がまるきり逆になるのです。
「訊く」は、聞き手が主役となって問題解決を行おうとする行為です。
「聴く」は、話し手が主役となって問題解決を行うのを助ける行為です。
例えばあなたが同僚から、こんな悩みを持ちかけられたとしましょう。
同僚「うちのチームのAさんが休みがちで困ってるんだよね…」
あなた「へぇ、いつからそうなの?」
同僚「え、もう3ヶ月ぐらい繰り返しているんだけど…」
あなた「何が原因なわけ?」
同僚「う~んおそらく…」
おそらくこのようなやりとりが行われるのではないでしょうか。
ここでのあなたの振る舞い方は、「訊く」行為です。何があったのか、いつからなのか、どうしてなのか…と矢継ぎ早に、事情を知るための質問を繰り出します。
この「訊く」を繰り返した先にあるのはいったいなんでしょうか。
それは、事情を知り尽くした上で、「じゃあこうしたら」と、答えを「あなた」自身が出すことです。
相手から情報を収集して、あなたの方法で問題を整理し、あなたの思う最適な判断を下そうとしているわけです。
しかし、ちょっと待ってください。
この問題を解決すべき主役はいったい誰でしょうか。
この問題について、一番これまで努力してきたのは誰でしょうか。
残念なことに、あなたがせっかく情報を知り尽くした上で「正しい」と思われるアドバイスをしても、かえってくる返事はこのようなものです。
あなた「じゃあ、バシッと叱ってみたらどうなの?」
同僚「うん、でも事情があってそれもなかなかできなくてね…」
あなた「こちらから朝電話してみたら?」
同僚「うん、でもそれは前にやってみたことがあるんだよね」
あなたが思う「こうしたらいいのに!」は、たいていは本人もとっくの昔に思いついています。
そして、相手がそれを口にしないのは、相手がそれを思いつかないからではなく、それを実行できない理由や上手くいかなかった過去があるからなのです。
あなたが問題を解決するんだと思っていると、このような「こうしたらどうだ」「うん、でも…」の押し問答をする羽目に陥ってしまうのです。
そしてあなたは「せっかくのアドバイスなのに素直じゃないな」と思い、同僚は「よく事情も知らないくせに簡単に言うなよ」と思うわけです。
これはその他の場合でも、職場でよく繰り広げられている光景ではありませんか?
どんなに素晴らしい解決策に思えても、相手がそれを実行できなければ何の意味もありません。
自分にとっての「正しい」解決策が、相手にとって「正しい」解決策とは限りません。
問題の当事者は相手であり、あなたが相手に代わってその解決策を実行するわけではないのです。
本人以上に、何がこの状況で最も現実的で実行可能な解決策かを知る人はいないのです。
さあ、ここで「聴く」の出番です。
相手は問題に対してただ指をくわえてきたわけではありません。解決への努力をたくさん試みてきた上で、目の前にいるのだと考えてみましょう。
そうしたら、相手のこれまでの試みの中に、解決へのヒントが埋まっているはずです。
今までどんなことを試みてきたのか。
それはうまくいったのか。
うまくいっていないとしたら、やり方を変えるとしたらどうなるのか。
これらこそ、あなたがよく「聴く」べきことです。
相手こそが問題解決の主役だと思えば、相手の中から、事態を解決に動かすアイデアを見出そうとするはずです。
一方的に「訊いて」、理想的な、でも使えないアイデアを出すより、「聴き」ながら、本当にできる解決策を創り出していきましょう!