前回、「限度を超えた仕事を振られてしまう」という状況を例に、黙って引き受けるのではなく、アサーティブな対処をとりませんか、ということをお伝えしました。
そうしましたところ、「伝えても全く聞く耳を持たれない、もしくはスルーされるような場合にはどうしたらよいのかが知りたい」というコメントをいただきました。
こんなふうにコメントを頂けるのは大変嬉しいです!
では、ご要望へのヒントになることを祈りつつ、アサーティブな姿勢についてさらに筆を進めてみたいと思います。
ところで「聞く耳を持たない」というのは、私たちがどう感じたときに出る態度でしょうか。
例えば「責められている」と感じたときなど、私たちはメッセージを受け止める気が起きなくなり、固く耳を閉ざしたり、背を向けてしまいたくなります。
この、「上司から限度を超えて次々と仕事を振られてしまう」という問題について、もし仮に「相手を責めている」としたら、どういう表現になるでしょうか。
ここで架空の人物、Aさんと上司のBさんに登場いただき、実際の会話として考えてみましょう。
Aさんはこれまで、Bさんから仕事を次々と振られ、ずっと無理をしながらなんとかこなしてきましたが、とうとうそのことを問題として取り上げる決意をしました。
【TAKE 1】
Aさん「Bさん、ちょっとお話があるんですけど」(※言い負かされまいと緊張)
Bさん「え、なに?」
Aさん「Bさんはずっと、私が限界だと申し上げているにも関わらず、新しい案件をあれもこれもと振ってきましたよね。現状、私の業務はオーバーフローしてますし、今後はきちんと業務量を理解いただいた上で振っていただきたいんですけど」
Bさん「は? 何甘えたことを言ってるんだ? 仕事なんだから与えられた仕事は自分の裁量でうまくやるのが当然だろう!」
(両者にらみあう…)
う~む、これでは上司のBさんが聞こうという気になれないのも無理はなさそうです。
ここでのAさんは、「上司に無理を強いられてきた私」という被害者の立場をとり、Bさんを「正しく部下に仕事を振れないダメな人」と暗に非難しながら話をしています。
これでは、上司のBさんにとって、Aさんのメッセージを受け入れることは、すなわち「ダメと認める」「相手に屈する」こととなってしまいます。上司の立場もある以上、これは難しいことと言えそうです。
そこで、ぜひ考えていただきたいのが、この事態を発生するにあたっての「Aさん自身の責任は何か?」ということです。
Aさんは「自分はいつも一方的に上司から仕事を押し付けられているだけなのに、自分の責任なんてない!」と思うかもしれません。
しかし、本当にそうでしょうか。
無力な子どもならともかく、大人である以上、そのとききっぱりと「NO」と言うこともできたはずです。いくら上司とはいえ、部下の首に縄をつけて仕事をさせるわけにはいきません。振られた仕事をいやいやながらも「引き受ける」という形で、その事態の発生に協力していたはずです。
「そんなことを言ったら評価が落とされる」とか「仕事を失ってしまう」といった理由から、「NO」となんて言えない、と思うかもしれませんが、それも結局、それらのリスクを回避するために、実は「言わない」という選択をしていたのです。
では改めて、自分の責任をきちんと認めた上で、対話を図るとどうなるでしょう。
【TAKE 2】
Aさん「Bさん、ちょっとお話があるんですけど」(※ここで深呼吸!)
Bさん「え、なに?」
Aさん「私はこれまで、Bさんから依頼された仕事を全てお引き受けしてきました。でも実は正直なところ、キャパオーバーの状態になっているんです」
Bさん「え、だってあなたが『やります』って言うことを確認してからお願いしてきたでしょ。それなのに今更なんなの」
Aさん「そうですね、最終的にお引き受けしたのは私ですし、今更になってこのように言い出すことは申し訳なく思っています。私としても『与えられた仕事はこなしたい』と思ったので、限界と思いつつ、全てお引き受けしてきてしまいました。ただ、今の状況では一つずつの案件に目が行き届かず、何か問題が起きてしまうのではと心配しているんです」
Bさん「じゃあどうしたいの?」(※耳を傾ける姿勢が出てきました!)
Aさん「ここまで引き受けた仕事は責任を持ってやりたいと思いますので、今後発生する案件に関しては、ご相談の上、引き受けるかどうかを決めさせていただけませんか」
Bさん「う~ん、人も少ないし、そうできるとも限らないけど…」
Aさん「ええ、そうですね。では、ひとまず、私がこのように考えていることだけご理解いただければと思います」(※ここはこのように引くべきところです)
Bさん「わかった。善処するよ」
Aさん「ありがとうございます」
いかがでしょうか。
今回は「問題状況の発生に自分も一役買ってきた」ということを明確にしていますね。
こうして責任の一端を認めることで、「相手が悪い」というバッシングの姿勢から、「お互い様」という姿勢となり、問題解決に向けた話し合いに移ることができます。
「自分を責めているのではない」とわかれば、自分を守る必要もなくなり、閉ざされていた扉は開きやすくなります。
また、相手から何が何でもその場で同意を引き出す必要はありません。自分の要求を伝えられたら、ひとまず良しとして、相手にも考える時間を持ってもらうようにしましょう。
もしかすると、すぐに状況は変わらないかもしれませんが、こうした対話姿勢の積み重ねが、「聞く耳を持つ」というゆるやかな変化をもたらすかもしれません。
さあ、あきらめず、小さなことから、対話の一歩を踏み出してみませんか!