●はじめに
プロジェクト・マネジャー(プロマネ)がプロジェクトを成功させるためには「2つの顔」が必要です。それは、「マネジメント」と「リーダーシップ」。2つとも、プロジェクトの目的・目標を達成するために必要な要素です。プロマネは、プロジェクト遂行において、ある時はマネジメントの仮面を被り、ある時はリーダーシップの仮面を被ります。米国やヨーロッパではきちんと使い分けられていますが、日本ではしばしば混同されがちです。リーダーシップの権威であるJ.Pコッター氏は、その著作である「リーダーシップ論」で、「リーダーシップ」と「マネジメント」は全く別物であると述べています。今回は「マネジメント」と「リーダーシップ」の違いを中心に、それぞれの定義や行動についてお話ししていきます。
●マネジメントとリーダーシップのゴール
マネジメントとリーダーシップの目的は、究極的にはプロジェクトの目的・目標を達成することです。課題を特定して、課題解決のために適切な要員を準備して、期限どおり課題を達成するという点では共通です。しかしながら、そのために使用される方法や具体的な行動は大いに異なります。
●マネジメントの流儀
マネジメントは計画と管理にフォーカスします。組織から与えられた公式な権限により、大きく3つの仕事を行います。
1.計画の立案
・プロジェクト成功のシナリオを作成
2.組織編制と人員配置
・プロジェクト成功のために必要な要員を手配してプロジェクトチームを編成する
・チームメンバーの役割責任を明確にする
3.コントロールと問題解決
・計画と実績の差異を分析し、問題があれば是正処置を行う
●リーダーシップの流儀
リーダーシップは人間関係にフォーカスします。権限に依らず、他人の行動に影響を与えるパワー(非公式なパワー)を発揮して、具体的には3つの仕事を行います。
1.ビジョンと戦略を描く(Show the Flag!)
ゴールとゴール達成の戦略を描いてステークホルダーと共有する
2.チームビルディング
チームビルディングとは、チームを編成することではありません。チームが最高のパフォーマンスを発揮するためのプロセスや組織作りのことです。
具体的な行動としては
・キックオフで、プロジェクトの目的・目標を明確にして共有することによりチームの団結をはかる
・チームパフォーマンスを最高にするために、メンバーの育成を行う
具体的な手段としては、メンタリング、コーチング、1on1 ミーティング、ロールモデリングなどによりメンバーに自信をつけさせる
・積極的に権限をデリゲートして、メンバーをエンパワメントする
……などが挙げられます。
3.コミュニケーションを通してステークホルダーを動かす
プロジェクトの失敗は技術的な要素よりも、コミュニケーション不全によることが圧倒的に多いというのが筆者の持論です。プロジェクトには、多くのステークホルダー(利害関係者)がいます。チームメンバーにとどまらず、顧客、顧客の顧客、外部ベンダー、自社の上位マネジメント、他部門のスタッフ、官公庁など多岐にわたります。プロジェクトを成功させる上で、何よりも重要なのは、このようなステークホルダー(プロジェクトを後押ししてくれる人もいるし、逆に妨害する人もいる)とコミュニケーションして、プロジェクトへの協力を依頼し、賛同してもらうことです。コミュニケーション手段としては、チームミーティング、定例会議、上位とのステアリングコミッティによる課題解決、粘り強い交渉、あるいは、上位への適切なエスカレーションなど様々なコミュニケーション形態が考えられます。また、上記の公式なコミュニケーションを補完する非公式なコミュニケーションを適宜行うことも有効な手段になります(例えば、雑談、ワーキングランチ、ポットラックパーティ*etc.)
*ポットラックパーティ:料理持ち寄り形式の食事会
●リーダーとリーダーシップの関係
リーダーとリーダーシップは異なる概念です。リーダーとはリーダーシップを発揮する人であり、その人の職種には関係ありません。プロマネやプロジェクト・リーダーだけでなく、メンバーもリーダーシップを発揮すれば、リーダーになりうるということです。「チーム・リーダーシップ」という言葉がありますが、これは、プロジェクトチーム全員がリーダーシップを発揮している状態のことです。
★Tip of the day
・「マネジメント」と「リーダーシップ」はプロジェクトを成功させる車の両輪である
・「有能なリーダー」は人々をやる気にさせる仕掛けを多く持っている
・「出来るプロマネ」は、「リーダーシップ」と「マネジメント」をうまくバランスさせてプロジェクトを成功へと導く