問題を「外在化」することについて、今回も考えてみましょう。
前回は「自分」の問題に関して「外」に置く発想をお伝えしましたが、これはもちろん「他者」の問題に関しても有効です。
たとえばあなたの部下のA君は、最近どうも初歩的なミスが続き、何度注意されても直る気配がないとします。
そんなとき、「内在化」の発想だと、こうなります。
上司「なんであなたは最近こんなにミスが多いの?」
A君「すみません、気をつけているんですが…」
上司「だったら何でこんなに多いわけ? 仕事に真剣に取り組んでないんじゃないの?普通にやっていれば気づくレベルの内容だよね?」
A君「……」
うーん、こうこられると、A君としては黙り込むか、青筋を立てて言い返すか、「自分は仕事の能力がないんだ」と思ってひどく落ち込むことになってしまいそうです。
この会話は、A君の本質や性格に「問題」があると捉えている会話です。そうなると、問題をなくすには、本人の「心根」を入れ替えたり、「性格・能力」を全面的リニューアルしなければなりません。
これは大仕事であり、問題をより解決から遠ざけることになりかねません。
そこで、問題を「外在化する」という発想を採用してみましょう。
A君から「問題」をポーンと取り出し、本人の「外」に置いてみてください。
「問題」がA君の周りでうろうろし、本人に悪さを仕掛けてくるようなイメージです。
1.まずは「問題」の「生態」を調べます。
上司「A君、最近ミスが続いているけど、何が起きているのかな?」
A君「すみません、気をつけているんですが…」
上司「ふむ、あなたは気をつけているわけだね。それでも起きるのは、何か理由があると思うのだけど…?」
A君「いや~、お恥ずかしいですが、うっかりミスとしか言いようがないです」
上司「じゃあ今起きているのは“うっかりミス”なんだね」
A君「はい」
上司「それで、どういうときに“うっかりミス”がよく起きているんだろうね?」
A君「いや~どういうときって…それはやはり忙しくて立て込んでるときですね」
上司「うん、他には?」
A君「他は…やはり初めての案件だとヌケモレが起きやすいですね」
上司「なるほど、初めての案件だね。最近になって“うっかりミス”が増えたのもその辺が理由かな?」
A君「そうですね、最近、新しく引き継いだ案件が一気に増えましたので…」
さあ、ここまで聞くと、「問題」の正体は“うっかりミス”であり、A君が「忙しいとき」や「新しい案件を担当したとき」を狙って頻繁に出没するのだとわかりました。
最近になって急に“増殖”してきた理由も見えてきましたね。
2.次は「問題」による「被害状況調査」です。
上司「それで、“うっかりミス”は、君にどういう影響をもたらしてる?」
A君「それはもちろん、ミスの対応に追われて時間がなくなって、悪循環ですね。周りからの信頼もなくなりますし…」
上司「なるほど、”うっかりミス”があなたから本来の仕事の時間を奪い、周囲からの信頼を奪っているわけだ」
A君「はい」
さあ、こうしてきくと、A君が本来望む仕事のありかたから、「問題」によってどのように妨げられてきたのかがわかりますね。A君も、実は問題の被害者だったわけです。なお、ここまでは「問題」を主語にして話すことがポイントです。
3.最後は「対処の基本方針」の確認です。
上司「それで、あなたはこの“うっかりミス”をどう思っているの?」
A君「そりゃあなくしたいと思っていますよ。私は仕事はちゃんとやりたいですから」
上司「そうだね、それじゃあ“うっかりミス”を完全になくすことにする?」
A君「いや~、そこまでの自信はないですが、せめて目立つミスはなくしたいです」
上司「そうだね。じゃあ“うっかりミス”が“影をひそめる”ようになるために、私たちに何ができるだろうか」
A君「そうですね、自分でももちろん気をつけますが、初めての案件については、ダブルチェックしてくれる人を一人つけていただけると助かります」
上司「わかった。検討してみるよ」
さて、いかがでしょうか。
先ほどの上司とA君は「責める人」と「責められる人」でしたが、今回は「うっかりミス」という問題に対して立ち向かう「チーム」になれましたね。
A君も、自分が「問題もち」の「困った人」なのではなく、「問題」に主体的に取り組むことを期待されているとわかり、積極的に解決策を出しています。
このように、「人」から「問題」を切り離すことは、問題に対する責任を放棄することにはなりません。むしろ「分ける」ことで、人はもっと責任を負えるようになります。
周りから見た「困った人」は、「困っている人」であることがほとんどです。
「困っている人」を責めるより、ともに問題に立ち向かうタッグを組んだほうが、よほど問題解決に役立つと思いませんか?
そのための「外在化」の発想、ぜひ取り入れてみてくださいね!