たとえば講座で「傾聴」を扱うと、よくこんな声が寄せられます。
「私の部下には、話し出すと止まらず、ず~っと話し続ける人がいます。相手の気が済むまで聴いてあげたいと思うのですが、私の仕事も進みません。いつまで聴いてあげるべきなのでしょうか」
それには私はこう答えています。
「あなたのできる範囲で、聞いてあげてください。時間を区切っていいんですよ。」
この悩みが示すことは何でしょうか。
私たちは、社会の中で生きていく以上、多かれ少なかれ他人の要求や期待に応えることが求められ、それは「責任感」や「思いやり」の現われとしても尊ばれています。
しかし、ときにはこれらの要求が際限なくあなたに降りかかってくることがあります。
あなたの能力や限界を超えて、「もっともっと」と求められてしまうのです。
そして、あなたもそれに「100%応えなければならない」と思い込んでしまうことがあるのです。
- 自分の能力を頼りにされて依頼された仕事は、たとえ毎日持ち帰ることになろうと、全て引き受けるべきだ
- 困っている部下の話は、自分のことを後回しにしても、いくらでも聞いてあげるべきだ
- 自分の望む過ごし方より、常にパートナーの望む休日の過ごし方に合わせるべきだ
- 助けを求めてくる子どもには、どこまでも援助し続けてあげるべきだ
このようになってしまうと、あなた自身の望みや大切にしたいものの優先順位は下がり、他者の期待に応えることに全てのエネルギーを使い果たしてしまいます。
最初は喜んでやっていたことが、しまいにため息をつきながら、いやいや応える義務でしかなくなってしまうかもしれません。
自分が「できる」限界は、残念ながら、他者の求める「ここまでしてほしい」ラインや、自分が自分に求める「ここまでやるべき」のラインと合致しないこともあります。
- 期待はありがたいですが、私にも引き受けられる仕事には限界があります。
- 30分なら時間を作ることはできます。それでよければ話を聴きますよ。
- 今まで毎週あなたと一緒に外出をしていたけど、私には1週おきがちょうどいいんだ。
- あなたのことは大事だけど、私にできるのはここまで。
など、自分の限界を設けましょう。
周囲から求められる要求に対して、「私ができるのはここまで」と境界線を引くのです。
もちろん一時的には、これまでのあなたとの態度の違いに、非難の声がぶつけられるかもしれません。
それでも、「自分のエネルギーや時間は有限である」ということを自分でも認め、周囲にも認めてもらうことは、長い目で見たときには両者にとって良い結果をもたらすことにつながります。
もちろん、一度引いた境界線を、あとで引き直す自由もあります。
自分のエネルギーと相談しながら、もう少し応えたい、と思えばそうすればよいのです。
これまで際限なく他者の要求に応えることが多くなっていた方。
少しずつ「限界を設定する」ことをやってみましょう!