さて、皆さんが責任ある職務を果たす中では、ときに相手の意に沿わない決定を伝えなければならないことも生じます。
たとえば、
- プロジェクトが中止になったことを関係者に伝えなければならない
- 希望する部署への配属や、昇進が叶わなかったことを伝えなければならない
- これまでその人に提供してきた支援制度の打ち切りを伝えなければならない
などなど、伝えたときの相手の怒りや悲しみを思うと、胃が痛むようなことを、あなたの口から言わなければならないことがあるでしょう。
たとえば、上記の「プロジェクト中止の決定を関係者に伝える」という件で、やりとりを再現してみましょう。
Aさんはある開発プロジェクトを推進してきたプロマネで、Bさんは外部の共同開発者で、これまで何年もかけて共に開発を進めてきた間柄です。
【TAKE1】
Aさん「突然の話で恐縮ですが、○○の開発について、会社の方針で中止することになりました。」(つい目をそらしながら)
Bさん「え~?!どうしてですか?!」
Aさん「ええ、社内で予算の見直しがありまして、採算の見込めないPJを中止することが会社の方針として決定しまして…」(相手が感情的になりそうなので、努めて冷静に返そうとする)
Bさん「そんな…あなたはそれでいいんですか?!」(Aさんが事務的なのでますます苛立つ)
Aさん「ええ、会社の方針の決定でして…どうぞご理解ください」(目を泳がせて)
Bさん「信じられない!」(いたたまれない空気…)
…いかがでしょうか。Bさんは憤懣やるかたなく、Aさんは自分に向かってきそうなBさんの怒りをそらすべく、「会社の方針」という言い分を繰り返すのみとなってしまいました。
確かにBさんがなんと言おうとも、決定事項は覆すことはできませんし、受け入れてもらうしかない話し合いではあります。
しかし、これまで心血を注いで取り組んできたBさんの気持ちはどうなるのでしょうか。一方的にPJを打ち切られた形のBさんは、これからAさんと共に仕事をしたいとは思わないかもしれません。
なんとかこの会話を、思いやりのある、心の通う対話にできないでしょうか。
先ほどのAさんは、Bさんの激しい感情が示されそうなことを不安に感じ、急いでそらそうとしてしまいました。
しかし、Bさんがこのことに驚きや怒りを覚えるのは無理もない、もっともなことではありませんか?
それでしたら、相手の感情を慌てて封じたり、もみ消したりしようとせず、相手の感情に耳を傾け、真正面から受け止めるようにしてみましょう。
【TAKE2】
Aさん「Bさん、大変申し上げにくいお話なのですが…(一呼吸置く)、○○の開発について、会社の方針で中止することになりました。」(まっすぐ相手を見て)
Bさん「え~?!どうしてですか?!」
Aさん「(うなずいて)驚かれるのももっともです(相手の感情を受け止める)。私も突然のことでいまだショックです。ただ、社内で予算の見直しがあり、本PJは採算が見込めないということで、中止が決定となったのです。」
Bさん「そんな…ここで本当に終わりなんですか?」(怒りより悲しみのトーンに)
Aさん「ええ、私も非常に残念です(感情)。今までBさんには長らくご尽力いただいてきましたのに、このようなことになってしまい、本当に心苦しい限りです(感情)。ただ、私としては、ぜひBさんとは今後ともお仕事をさせていただきたいですし、これまでの開発で得たことは何らかの形で活かしたいと思っています。」
Bさん「そうですね…わかりました。今回の決定は非常に残念ですが、また次の形を検討していきましょう。」
Aさん「ありがとうございます。ご理解感謝します。」
いかがでしょうか。
相手の感情をまっすぐ「受け止め」、自分の感情もはっきりと言葉にしていくことで、先ほどの「会社の方針」一辺倒の話より、ずっと心の通う対話にすることができました。
言いにくいことほど、なんとか相手にすんなり受け取ってもらおうと、相手の感情を打ち消すように話をしてしまいがちですが、人間ですから感情が伴うのは当然です。
ハッピーエンドにはならない話であっても、こうして相手に思いやりを示すことはできます。
口にするのが辛い話ほど「相手の感情を受け止める」ことを心がけてみてくださいね。