●リスクの2つの視点(全体リスク×個別リスク)
「プロジェクト・リスク」というと、たとえば「仕様変更による納期リスク」、「品質リスク(性能未達など)」や「追加要求によるコストリスク」などが考えられます。所謂、与件であるQCDを計画通り達成できないリスクです。確かに、「プロジェクト・ゴール」の達成に影響はしますが、「プロジェクト・ゴール」そのものが達成できるかどうかということを対象としているわけではありません。これら「納期遅延リスク」や「コストリスク」のように「プロジェクト・ゴール」の達成に影響を与えるかもしれない特定の「事象」や「状態」のことを「個別リスク」と呼びます。
それに対して、プロジェクト・ゴールそのものが達成できるかどうかを対象とした不実性のことを「全体リスク」と呼びます。ほとんどのプロジェクトでは、個別リスクに注意が集まり、全体リスクへの配慮が疎かになりがちです。
今回は、この「全体リスク」にフォーカスしてお話ししたいと思います。
●全体リスクを考える
全体リスクの考え方はPMBOK V6でリスク・マネジメントの重要な概念として新たに記述されています。
プロジェクトマネジメントの権威であるトム・デマルコ氏も、その著書である「Waltzing with Bears(熊とワルツを)」で、「リスクには全体リスクと個別リスクがあり、それぞれ扱い方が異なる!」と説明しています。
全体リスクの具体的な内容としては、
・お客様のビジネス・トランスフォーメイションによりプロジェクトが中止される
・経営方針の転換により、プロジェクトの目的が変更される
・組織内でプロジェクト優先順位が低い
・プロマネ権限が明確でない
・プロジェクトスポンサーの支援が期待できない
・プロジェクトガバナンスが不明確である
などが挙げられます。
●全体リスク対応戦略
全体リスクに対する戦略としては、
1.回避
・スコープから高いリスク要素を取り除く
・プロジェクトのリスクが閾値を超えた場合、プロジェクトを中止する
2.転嫁
・全体リスクレベルが高く、それに組織が適切に対応できない場合は、第三者が組織に代わって関与する
3.軽減
・プロジェクトを再計画する
・プロジェクトの優先順位を変更する
4.積極的受容
・包括的なコンティンジェンシー予備(スケジュールバッファーや予算予備費など)を準備する、
などが考えられます。
●個別リスクと全体リスクとの関係
個別リスクの管理はもちろん重要で、確実に洗い出して事前に対応を検討しておく必要があります。
ただ、個別リスクばかりにマネジメントを集中させていては、全体リスクのようにプロジェクトの外部からのものへ適切に対処することはできません。「木を見て森を見ず」に近しいスタンスを取った結果、「想定外の事態に陥る」ということになりがちでプロジェクトの失敗に繋がることになります。
このような事態を避けるためにも、プロジェクトの初期段階で、全体リスクに対する戦略も検討して、全体を俯瞰することも必要です。
★Tip of the day
- リスクには「個別リスク」と「全体リスク」があり、異なる対応策が必要
- 全体リスクについては、プロジェクト憲章に記載して関連するステークホルダーと共有
- リスクについては、「木だけでなく森も見て」全体を俯瞰することが必要