●はじめに
ITシステム開発のプロジェクトは、計画段階でリスクの洗い出しと分析を行い、リスクに対する戦略を立案してプロジェクトを開始しているはずですが、失敗するプロジェクトが後を絶たないのが実状です。最近の調査によれば、約50%のプロジェクトがQCDの目標や顧客満足度を達成できず、開発された成果物が使用されていないという報告もあります。フィージビリティ・スタディ(実現可能性調査)は、過去に経験がなかったり新技術を用いて開発するといった不確実性の高いプロジェクトの開始前に、プロジェクトの不確実性をマネジメントするため、代替策やソリューションを検証してプロジェクトの成功確率を高める目的で適用されます。
●フィージビリティ・スタディの定義
「フィージビリティ・スタディ(実現可能性調査)」とは、プロジェクトのフィージビリティ(実現可能性)を事前に調査・検討することです。
ITシステム構築プロジェクトでいえば、新しい技術採用や不確実性の高いプロジェクトを実施する場合、業務面、システム面、資金面、投資採算性、市場動向など複数の視点から分析を行い、その実現可能性を検証するプロセスです。実現可能性を評価する手段としては、プロトタイピング、パイロットシステム、性能シミュレーション、市場調査、ROI(Return on Investment)などがあります。
筆者も、製造業の生産管理システム開発において、オブジェクト指向という経験のない全く新しい開発技法を採用したプロジェクトで、事前にフィージビリティ・スタディを実行して、業務面・技術面や運用面から分析を行い、その実現可能性を検証したことにより、プロジェクト開始後に発生した課題やリスクに適切に対応することができました。
●フィージビリティ・スタディを実施するタイミング
フィージビリティ・スタディはプロジェクト開始前の、企画段階で実施されます。即ち、組織として、プロジェクトを正式に発足するかどうかを判断するフレームワークとして使用されます。フィージビリティ・スタディの方法は、プロジェクトの正式な立ち上げの前段階で、一つのフェーズとして実施することもあれば、独立したプロジェクトとして行うこともあります。プロジェクトには「不確実性」つまりリスクが内在しています。プロジェクトが大規模であったり、新技術採用で不確実性が高ければ、失敗のリスクも高くなります。もしプロジェクトが失敗した場合、ビジネスへの影響などを考慮したうえで、プロジェクトのGO/NO GOを判断する必要があります。その判断のツールとしてフィージビリティ・スタディを適用します。
●フィージビリティ・スタディの効用
前述したように、フィージビリティ・スタディはプロジェクトの企画段階に実施して、プロジェクト全体のフィージビリティを評価します。その結果は、ビジネスケースとしてプロジェクト企画書に盛り込まれ、組織としてGOサインがでれば、正式にプロジェクト発足となります。また、フィージビリティ・スタディの結果はプロジェクト憲章やプロジェクトマネジメント計画書に反映され、プロジェクトの成功確率を高める役割を果たします。
★Tip of the day
- プロジェクトの不確実性をマネジメントするツールとしてフィージビリティ・スタディを適用する
- プロジェクトのフィージビリティを企画段階で検証し、プロジェクトの後工程で発生する問題を先取りすることで、プロジェクトの成功確率を高める