マネジャーやリーダーは、メンバーの気持ちをよく受け止め、理解を示す「傾聴」のスキルが必要だ、ということはお題目としては共有されています。
ところが研修で「傾聴」をやってもらい、その後で自己評価をしてもらうと、よくこんなコメントが出てきます。「自分と同じような立場なので、事情もよくわかって、聞けました」
確かにそうですよね。相手と自分の立場や経験が近しいものだと、「わかるわかる!」と、相手の気持ちが手に取るようにわかって、大きくうなずきたくなるものです。
話し手と聴き手の間には一体感が生まれ、話し手は聴き手のリアクションに「わかってもらえた!」と大いに満足感を得るでしょう。
ところが、このスタンスで相手の話を聴くことができるのは、実は限られた相手です。
自分と同じような立場、背景、価値観、経験を持っている相手であれば、この「だよね」のトーンで話を聴くことができます。
しかし、もし自分の立場、背景、価値観、経験とは異なる相手が、「そうだ」とは思えないことを言ってきたらどうなるでしょう。
「う~ん……」と腕組みして悩んだポーズのままスルーするか、「いや、それは違うんじゃない」と反論したくなるかもしれません。
こうなると話し手は「あ、やっぱり私の考えは受け入れられないんだ」「どうせこのチームではよそ者だ」などと、傷ついたり疎外感を覚えることになります。
つまりここに「同感」の限界があると言えます。
「同感」は「sympathy(シンパシー)」に該当しますが、自分と相手を同一視し、「自分と相手は同じ」であることを前提として生まれる気持ちです。
自分と似た境遇の人に親近感を持つ、自然な感情の動きといえるでしょう。
一方で、同じような言葉に「共感」があります。
「共感」は「empathy(エンパシー)」に該当しますが、こちらは「自分と相手は違うものだ」という前提に立って、それでもなお相手の気持ちを汲み取ろう、理解しようとする試みです。
こちらは自然にできるものというよりは、努力を必要としたり、相手の気持ちを想像し、近づこうとする知的作業ともいえます。
この「共感」能力は、多様性が高い職場になればなるほど、必要とされる力です。
・自分は男性だけれど、女性だとこう感じるのではないか
・自分は子どもがいるけれど、いない人はこういう気持ちなのではないか
・自分は本社に務めているけれど、支社だと何か違う事情があるのではないか
・自分は日本人だけれど、外国人だったらここに困難があるのではないか
などなど、自分と異なるメンバーの事情や気持ちを理解して、気持ちよく働いてもらうためには、「共感」に基づく関わりが必要なことがわかります。
「自分とは違う立場だし、事情もよくわからないけど、わかりたいと思って聴きました」というコメントが増えてきたら、新しい時代の到来ですね!